第106回98年1/18
「どんど焼きと星空」
北越雪譜拝見
鈴木牧之(すずきぼくし)は、江戸時代に塩沢町で家業である質屋・縮布の仲買を営みながら、実に40年の歳月をかけて雪国の生活を克明につづった書「北越雪譜」を著しました。現在の雪国の生活は大きく変化してしまいましたが、自然の状況や、その特異性は、今にも通じるものであり、その内容は実に興味深く、また、面白いものです。
そこに「斎の神祭り」についても記されています。全国各地で行われる行事らしく、そのほとんどが1月の15日あるいは、14日に催されます。県内は15日が大半のようです。呼び名もいくつかあり、「どんど焼き」が全国的に通っています。私の田舎では「ホイホイ」、「ドンドンサゲッチョ」、会津方面では、「だんご焼き」の呼び名があります。その手法のもいくつかのバリエーションがあるようですが、主に竹や松の支柱のまわりにわらやしめ縄などを巻き、正月の飾りもの、書き初めとともに燃やす様式が多いようです。元もとは、神様を天に送る行事で、、その火で餅やするめを焼いて食べ、1年間の無病息災を願います。どんど焼きは、地域によって執り行う時間も様々ですが、私の田舎では夜暗くなってから火をつけるのが通例です。芯に立てた竹が熱によってドーンと破裂するつど「ホーイホーイ」とかけ声をあげ、煙のなびく方向などで今年の農作物の出来を占うのが古式正当なやり方なのだそうです。
1月15日といえば、寒さが最も厳しい頃で、暖冬でも雪の積もることが多い印象があります。強い季節風が吹き、移り変わる雲の合間に見事な星空が見えたときがありました。燃えさかっていたどんど焼きの炎が鎮まって、わらのおきが赤々と輝くようになると、それまで気づかなかった天上の星々の輝きに気づき、天上に帰る神様のように、その漆黒の空にすーと気持ちが吸い込まれるような気がします。
北越雪譜の中には「芭蕉翁が遺墨」のタイトルで、「佐渡に横たう天の川の句」を紹介しているところがあります。そこで、「越後を訪れる文人の数は実に多いが、秋の終わりになれば雪を恐れて逃げ帰るので、雪に関する記述はない・・。」という面白いコメントが添えられています。今年のように、関東太平洋側にも雪が降り、様々な問題がテレビで映し出されると、雪に暮らす雪国の生活の優位性をかいま見たりします。
ほんの一瞬のぞかせる星空が、宝石のようにきらびやかに見えるのも雪国ならではの恩恵かもしれません。
キャプション
去る15日夜、雪中のどんど焼き。星空は見えませんでしたが、風もなく、炎は真っ直ぐ天上を目指していました。
原文を忠実に再現した「北越雪譜」(鈴木牧之・野島出版)
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