第8回96年2/25
「星の降る池」
郷土に伝わる珠玉の星物語
岩船地区ではおおいぬ座の一等星「シリウス」をおおかみ星と呼んでいたという事を以前に紹介しました。中村忠一さんが戦前にまとめた民話集「岩樟舟夜話」の中の一話「星の降る池」に記されていたものです。その初版を目にしたとき、私は大きな驚きと興奮を覚えました。この物語りの舞台は、私が以前に調べたものと異なり、神林村の大池という小さな池でした。今は白鳥の池として定着した感のある大池ですが、ここに星の伝説があったことを知る人はほとんどいないようです。
物語は、見事なまでの夜の静寂に満ちた情景描写からは入ります。「流れ星」は人が新で極楽に行ったしるし、水面から天に延びた「極楽の道」が天の川でしょう。そこには冬、あるいは晩秋の夜半に見せる星空の様子が記述されています。「魂の車座」はかに座のプレセペ星団でしょうか、「三びきの馬」、「馬小星」などの難解な星座もでてきますが、「熊手星」(オリオン座の三ツ星)といった名の通った星座もあります。
この物語りの圧巻なところは、後半部分です。
星座たちは友人の星の祝言に呼ばれます。空高くかがやく「うぐいすのかご星」(すばるかぎょしゃ座)が先に出発し、熊手星が追いかけ、おおかみ星がそれに続きます。やがて、熊手星はうぐいすのかごを追い越しますが、南に低いおおかみぼしは最後まで残ってしまいます。
これは、星の配置と動きを見事に表現しており、昔の人たちの観察力の鋭さにただただ感嘆するばかりです。星の記述がこれほどリアルに物語としてまとめられている例は国内には他に見あたりません。しかもそれをこの様な情緒あふれる話に仕上げたのですから素晴らしいことです。
ところで、この話はその後驚くべき方向へ展開していきました。つづく・・
大池の上にかかる冬の星座を再現。今なら宵の頃、似たような星空を見ることができます。
どんど焼きと星空 |